しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

memo

方法はいろいろでも、一見つじつまがあわないようでも、それは、未知の幾何学のように、揺るぎない論理にしたがっている。それは、直感では理解できても、合理的な順序で表現したり、理由づけをすることは不可能な、なにか、だった。彼は思った。ものにはそ…

ジュリアン・グラック『ひとつの町のかたち』を読む

お正月休みに、ジュリアン・グラック『ひとつの町のかたち』(書肆心水、2004年)を読んだ。 北村太郎がじしんのことを「街っ子」と呼んでいたように、わたしもまたじぶんを「街っ子」であると思っている。帯文の「少年と町」というのはわたしの好物であるの…

ジョゼフ・コーネル『フラッシング・メドウズ』

フィルムセンターにて、ジョゼフ・コーネルの短編映画『フラッシング・メドウズ』(8分/16mm/1965年)を観たので、忘れないうちに映像の記憶を書かねば、と思いつつも、こんなにあいだがあいてしまった。記憶が薄らいでしまう前に、走り書きしておいたメモを…

中村三千夫さんの小さな冊子(つづき)

国立国会図書館にて、中村三千夫さんの追悼文を閲覧してきた。詩人の安東次男による文が心のこもった文章でひどく感動する。とりわけ最後の一文。 先ごろ、中村三千夫が急逝した。中村三千夫といっても、一般にはなじみのない名まえだろうが、東京渋谷の宮益…

追記:平出隆×加納光於の対話で、詩画集をつくりませんか?と提案したのは加納さんのほうからだったとのこと。平出さんからのアプローチだろうなと思っていたので、すこし驚いた。詩画集『雷滴』は、中心に加納さんによるモノクロームの版画が置かれ、その両…

1983年のジョゼフ・コーネル映画祭

京橋のフィルムセンター図書室には、あらゆる映画資料を収集対象としているだけあって、こんなもの(リーフレット)まで所蔵されているのである。すごい(!)。1983年のその場に立ち会えなかった者として、せめて記録だけでもここに書きとめておきます。 1.…

増村保造『最高殊勲夫人』は、戦前の日活映画『結婚二重奏』へのオマージュである

関東でも梅雨明けが発表された午後、フィルムセンターにて、増村保造『最高殊勲夫人』(大映東京、1959年)を観た。若尾文子が可愛いテンポの良いロマンティックコメディの佳作といった感じで楽しめたけれど、いちばん感動したのは、母親役に戦前の日活スタ…

five pieces of 2013

2013年に読んで観てよかったものを備忘録として五本ずつ。今年はあまり映画は観られなかったのでパス。それにしても、雑事にかまけて年々読書量が落ちてきているのが深刻...。来年こそちゃんと本を読む生活をしたいと思う。 読んだ順・ジェイムズ・ジョイス…

chiclin アトリエショップのこと親しい友人のmitsouこと奥村麻利子さん・健男さん夫妻が、今月11日に東急大井町線の尾山台でアトリエショップをオープンしました。大きく窓を採った明るい白い部屋で、気持ちのよいところです。床は確か薄いグレイだったと記…

柏倉康夫『マラルメ探し』(青土社、1992年)よりメモ:「私はこの桁外れな作品を見た最初の人間であると信じています。マラルメはこれを書き終えるとすぐ私に来訪を求め、私をローマ街の居室へと招じ入れたのでした。......彼は黒ずんだ、四角な、捩じれ脚…

『spira/cc』01号

思うところあって、しばらくここを放っておいたのですが、またそろそろと再開するかも・しないかも。Spiral Recordsとcrystal cageが協同で発刊しているフリーペーパー『spira/cc』01号に、河野道代さんの『時の光』の書評を載せていただきました。12月にこ…

十月

「......彼の家の傍には、大きな樹々の並木道がございました。そこを端から端まで、往ったり来たり逍遥しながら、彼は幾時間もの間、自分の孤独極まりない身の上を思い続けたり、遐かなくさぐさの存在が、その暗がりの不気味な深みの中に、まだ何か、希望と…

・神奈川近代文学館『近藤東文庫目録』(http://www.kanabun.or.jp/0e00.html)竹中郁 書簡(パリ、マドリッド、ニース)1920年代絵葉書 *これは閲覧不可? 竹中郁没後三周年記念パンフレット(梅田近代美術館、編集工房ノア、1985.4.6) 竹中郁『一匙の雲…

平出隆《FOOTNOTE PHOTOS》展 ――葉書でドナルド・エヴァンズに 写真と郵便による「もうひとつの世界」への旅 http://www.spiral.co.jp/e_schedule/2012/05/spiral-records-presents-goro-i.html 「通常の切手の脇に、あなたの切手を並べて貼ったものです。郵…

言葉を失った状態が長くつづいたので、言葉を読むことに困難をおぼえた一年だった。上に挙げたのは、その中でのささやかな収穫です。今年は集中力を持続して読むことができなかったという外的要因もあるけれど、言葉の多い小説よりも言葉の少ない詩のほうに…

via wwalnuts叢書09の平出隆『胡桃だより』と吉岡実『ポール・クレーの食卓』の表紙がどことなく似ているなあと思ったことを書き留めておきたい。吉岡実のこのささやかな拾遺詩集のことを突然にぽんと思い浮かべてしまったのは、ちょうど機会があって*1書肆…

欧州旅行記 その3 9月26日、晴れ。美味しいけれど少し塩辛いハムとチーズを挟んだバンズにコーヒーという簡単な朝食を摂り、さっそく街へ出掛ける。トラム2番に乗り、通勤自転車の列がものすごいスピードで縦横無尽に往来をゆくのを驚きの交じった思いで眺め…

欧州旅行記 その2 9月25日、アムステルダム二日目。今日は日曜日で、武田百合子さんとフォークナーとマーク・ロスコとロベール・ブレッソンと家人の誕生日である。日没が遅いからか夜明けも遅い。薄明の時間がずいぶんと長いような気がする。運河から湿り気…

欧州旅行記 その1 9月24日夕刻、アムステルダムに到着。スキポール空港(「船の地獄」という意味をもつのだそう)から中央駅へ黄色い電車に乗る。二等車のドアを開けると、がらんとした車両のコンパートメントの壁に大きく落書きがしてあるのを見て、ああ、…

机上の灯台 ノウゼンカズラの杏色の花は落下し、百日紅と芙蓉はまだたくさん咲いている。この前見たときはまだムラサキシキブの小さな実は色づいていなかったのに、今日はもうだいぶ薄紫色に変わっていた。 まっさおさおな高い空なので、日傘くるくるまわし…

石原輝雄『三條廣道辺り 戦前京都の詩人たち』(銀紙書房、2011年) マン・レイ・イスト氏こと石原輝雄さん(id:manrayist)より上梓されたばかりの本を一冊分けていただいた。前々から出来を愉しみに待っていた一冊である。正式な発売日はまだにもかかわら…

瀧口セラヴィ農園のオリーヴ 一九六〇年代の終りころから瀧口さんはこの庭のオリーヴの実を舞踏家の石井満隆らの協力で採取して、ピクルスを作ることを試みられた。わざわざビンを買って来られ、ラベルも印刷して、その成果は毎年幾人かの親しい友人たちに配…

水晶のように透明(クリスタル・クリア):キャサリン・マンスフィールド 書かない時間があまりに長かったので、ここに何を書いていいのかよく判らなくなってしまった。こういう時は引用に限ります(?)。時間があるので、昔読んだ本を気まぐれに読み返すと…

マックス・ブロート宛 [プラナー、消印 1922.7.5].......なんと脆弱な地盤、というよりまるで存在もしない地盤のうえに僕は生きていることか。足の下は暗闇だ。そして暗い力がそこから、みずからの意志で生まれ出て、僕が口ごもる言葉なぞ歯牙にもかけず僕の…

メモ:カフカがローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』について書いている。 アイスナー取締役宛[プラハ、おそらく1909年]親愛なるアイスナー様、御恵送ありがとうございます。 私の専門の勉強は、いずれにしてもはかばかしくありません。 ヴァルザー…

私的メモ:島本融と北園克衛 返本の時に、ふと書庫で目についた『株式会社紀伊國屋書店 創業五十年記念誌』(非売品・昭和五十二年、紀伊國屋書店)という本をぱらぱらとやったら、これはとてもおもしろそうだとピンと来てさっそく借り出してくる。収録され…

・彷書月刊の8月号「特集・川崎長太郎のうたごえ」における、平出隆×坪内祐三対談がめっぽう刺戟的。長太郎と荷風における歩行の違いの話など、なるほどと思う。何かの目的のために歩くのではなく、歩くという行為やストロークのリズムそのものが皮膚感覚と…

昨日は、原宿のブックカフェBibliotheque(ビブリオテック)*1主宰の、『鳥を探しに』刊行記念・平出隆トークショー「散文へのまなざし」を聞きに行く。昨年11月の「西荻ブックマーク」(id:el-sur:20091117)での扉野良人さんとの対話の中で、準備中のこの…

岡田時彦による渡辺温の追悼文 国会図書館の提供する「雑誌記事索引」の断絶と不備とを埋める、皓星社の「雑誌記事索引集成データベース」(http://www.libro-koseisha.co.jp/top01/main01.html)は本当にすばらしい仕事.....!無料公開だったテスト版の頃か…

村松桂さんの写真展「danza margine」が恵文社にて開催中だそうです。お近くの方はぜひ。 村松さんの写真をはじめて拝見したのは、昨年の空中線書局の10周年記念イヴェントにおいてだったのですが、どこか不穏で、静謐なのだけれどシンプルというのではなく…