しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

book

夏休み読書で、田中純『過去に触れるー歴史経験・写真・サスペンス』(羽鳥書店)。著者の『冥府の建築家』には感銘を受けたので、第2章のアーカイブの旅はスリリングだった。「死者から選ばれている」と思い込むに至るのは、気の遠くなるようなアーカイブ探…

蓮實重彦「伯爵夫人」おぼえがき

『新潮』2016年4月号掲載の蓮實重彦『伯爵夫人』を読んで、そのあられもない小説に唖然とする。エッジの効いた鋭い言葉の数々に舌を巻いてきた者としては、「老いてますますさかん」という言葉がぴったりな精気漲るこの小説を読んで、マノエル・ド・オリヴェ…

お知らせ3つ

黄金週間のあいだに参加した冊子が刊行されたのでそのお知らせです。まずは、真治彩さん編集の『ぽかん』05号で附録の「ぼくの百」を担当しました。大切な本を100冊選んでよい、という読書する人間にとっては夢のような企画。拙い文を林哲夫さんの大へん素敵…

方法はいろいろでも、一見つじつまがあわないようでも、それは、未知の幾何学のように、揺るぎない論理にしたがっている。それは、直感では理解できても、合理的な順序で表現したり、理由づけをすることは不可能な、なにか、だった。彼は思った。ものにはそ…

ジュリアン・グラック『ひとつの町のかたち』を読む

お正月休みに、ジュリアン・グラック『ひとつの町のかたち』(書肆心水、2004年)を読んだ。 北村太郎がじしんのことを「街っ子」と呼んでいたように、わたしもまたじぶんを「街っ子」であると思っている。帯文の「少年と町」というのはわたしの好物であるの…

『本の雑誌』はいつも近所の図書館か勤務先の図書館で立ち読みするくらいで買ったことはなかったのだけれど、今回の特集が「リトル・マガジンの秋!」というので、はじめて買って読む。最初のほうのページに掲載されている内堀弘さんの「リトルプレス・紀伊…

中村三千夫さんの小さな冊子(つづき)

国立国会図書館にて、中村三千夫さんの追悼文を閲覧してきた。詩人の安東次男による文が心のこもった文章でひどく感動する。とりわけ最後の一文。 先ごろ、中村三千夫が急逝した。中村三千夫といっても、一般にはなじみのない名まえだろうが、東京渋谷の宮益…

追記:平出隆×加納光於の対話で、詩画集をつくりませんか?と提案したのは加納さんのほうからだったとのこと。平出さんからのアプローチだろうなと思っていたので、すこし驚いた。詩画集『雷滴』は、中心に加納さんによるモノクロームの版画が置かれ、その両…

自分用メモ:平出隆×加納光於「装幀をめぐって」 聞き手を平出さんがつとめ、加納さんが答えるというような図式ではじまった。まず、最初に加納さんがおっしゃったのは、自分は絵描きで専門のブックデザイナーではないのに、どうして装幀を頼んでくるのか?…

『ぽかん』04号、届いた!

そろそろ出掛けようかなと思っていたら、玄関で呼び鈴が鳴った。郵便配達夫が「お届けものです」と言って手渡してくれたのは、有元利夫の絵を手作り封筒にして、美しい記念切手をたくさん貼った、真治彩さんからの荷物だった。わーこれこれ待ってました。急…

今日は学校はお休み、窓の外は雨模様。雨の滴りと冷蔵庫の唸る音しか聴こえない室内です。更新がほとんど途絶えており、ここを見てくださっている方も稀かとは思うのですが、海に小石を投げるようにしてこっそり書いてみます。昨年のことになりますが、TOKYO…

蜘蛛の巣

井口奈己『ニシノユキヒコの恋と冒険』はほんとうに素晴らしすぎて、久しぶりに新作映画を観て昂奮する。あまりによかったのでトークイベントにまでいそいそと参加して、井口監督に直接「ほんっとに素晴らしかったです!」と伝えられたのが嬉しかった。おお…

高祖保随筆集『庭柯のうぐひす』

金沢のすてきな書肆・龜鳴屋さんより、春の訪れとともに高祖保随筆集『庭柯のうぐひす』が届く。まずは、いつもながら丁寧で好ましい造本に感激。緑色の函に入れられ、手にしっくりなじむ小ぶりの丸背本は、本文も緑色で印刷されている。見返しには瀟洒な邸…

five pieces of 2013

2013年に読んで観てよかったものを備忘録として五本ずつ。今年はあまり映画は観られなかったのでパス。それにしても、雑事にかまけて年々読書量が落ちてきているのが深刻...。来年こそちゃんと本を読む生活をしたいと思う。 読んだ順・ジェイムズ・ジョイス…

金井美恵子『ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ』(新潮社、2012年)*1読了。金井美恵子は新刊が出るとすぐさま買いもとめる僅かな作家のひとりだったのに、ここ数年はすこし興味の方向が小説からずれてしまったこともあり、今まで読ま…

近代ナリコ『女子と作文』(本の雑誌社)*1を読む。 この本で採りあげられた書き手はほとんどが女性であり、男性であれば「女性が書く」ことをモティーフにしたものを扱っている。『トマトジュース』シリーズの大橋歩、尾崎翠も投稿していた『女子文壇』で筆…

書庫で一冊:ローベルト・ムージルの語る短篇小説「問題としての短編小説。一人の人間を殺人へと駆り立てる体験がある。五年間の孤独な生活へと駆り立てる体験もある。どちらの体験がより強烈か。およそそんな風に、短篇小説と長篇小説は区別される。突然の…

週末、大型書店に鳥影社から刊行中のヴァルザーの新刊『ローベルト・ヴァルザー作品集3』*1を買いに行ったのだが、あいにく品切であった。たぶん発売日を待ってすぐにもとめた人がいたのだ。わたしはちょっと出遅れた。今は、ゼーバルトを読んでいるので、じ…

生島遼一『春夏秋冬』所収の「弟の玉子焼」というエッセイは、しみじみよい書きものであるが、そのなかに期せずして中村正常の名前がちらと出てきたので、久しぶりに尾崎翠のこと(id:el-sur:20090625)を思い出した。あの珠玉の文章作品を書いた翠が『詩神…

生島遼一『春夏秋冬』(講談社文芸文庫)*1 黄金週間のあいだに一度、他の本と一緒に読んでいたのだが、その時はあまりにもさらっと読んでしまったので、なんとなく再読したくなって、また読み返している。山田稔さんのいつもの抑制された、けれども、ふかい…

柏倉康夫『マラルメ探し』(青土社、1992年)よりメモ:「私はこの桁外れな作品を見た最初の人間であると信じています。マラルメはこれを書き終えるとすぐ私に来訪を求め、私をローマ街の居室へと招じ入れたのでした。......彼は黒ずんだ、四角な、捩じれ脚…

『spira/cc』01号

思うところあって、しばらくここを放っておいたのですが、またそろそろと再開するかも・しないかも。Spiral Recordsとcrystal cageが協同で発刊しているフリーペーパー『spira/cc』01号に、河野道代さんの『時の光』の書評を載せていただきました。12月にこ…

黒田夏子『abさんご』*1を読む 物語を要約したらわずか数行で終わってしまうだろうこの小説は、読みおえたそばから、ふたたび最初の頁に戻って読みはじめたいと思ってしまう不思議な魅力にあふれている。うっとりと感嘆のため息を吐きながら、もう五度ほど再…

ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』を読む 年の瀬に、ひょんなきっかけから、ハリー・クロスビーという作家のことが気にかかった。翻訳も見当たらず、日本語のwikipediaもないので、日本ではほとんど忘れられた作家なのかもしれない。勤務先の蔵書目録をち…

crystal cage叢書: 河野道代『時の光』(TPH, 2012年)を読む これは、身辺雑記と括られるたぐいのものかもしれないが、驚くべき「性能」をもった眼を通し、磨き上げた鉱物のような光を放つ言葉をそこに配することで、これほどの高次な芸術に貌を変えること…

叢書crystal cage 16日の夜、青山のSpiral Recordsにて、crystal cage叢書刊行記念トークセッション(平出隆+港千尋+三松幸雄)*1に参加した。 版元のTPH(Tokyo Publishing House)の横田茂さんと平出隆さんとのあいだで、かれこれ10年以上の長きにわたっ…

アオイ書房『新詩論』を閲覧する オレンジ色のかぼちゃを模した飾り付けに彩られた住宅地のあいだを通ってゆく。なぜかわたしが駒場の近代文学館に行くのは決まって10月のこの時期なのだなあ、と今年もそんな家々を眺めやりながら思う。わたしはハロウィンと…

78 リスは、すなわち木鼠です。地上へも来ますが、多くは樹のうえをまわり歩いて、植物質を荒します。リスの食わない樹の実は少ないくらいでしょう。ことにブナ、カシ、クルミの果実は、ひどくわたしの好むところであります。 平出隆『胡桃の戦意のために』…

十月

「......彼の家の傍には、大きな樹々の並木道がございました。そこを端から端まで、往ったり来たり逍遥しながら、彼は幾時間もの間、自分の孤独極まりない身の上を思い続けたり、遐かなくさぐさの存在が、その暗がりの不気味な深みの中に、まだ何か、希望と…

詩集を遺さなかった詩人・増田篤夫のこと 「透明な世界に於ては、凡てが秩序である。秩序は自由である」(三富朽葉) 青木重雄『青春と冒険 神戸の生んだモダニストたち』(中外書房、1959年)は、モダン都市・神戸のもっともよき時代を小松清・竹中郁・稲垣…

清岡さんのこと 『アイデア』No.354を何度も眺めていたら、K氏のことを思いだした。そうしたら、何となく原口統三のことを思いだしたので、ふと思い立って、読みさしのままになっていた、清岡卓行『海の瞳 原口統三を求めて』(文藝春秋、1971年)を読んでみ…

旅の親密なスーヴニール:『瀧口修造1958 旅する眼差し』(慶應義塾大学出版会、 2009年) *1刊行当時からいつか手に取ってみたいなと思っていたこの本(箱?)をようやくじっくり読む(見る)機会を与えられた。 1958年、瀧口修造はヴェネツィア・ビエンナ…

多田智満子を読む ふと気になって手に取った多田智満子の詩があんまり素敵なので驚いている。「多田智満子」の名前は、マルグリット・ユルスナールの翻訳者としては届いていたけれど、詩篇はほとんど読んだことがなかった。おお、わたしはいつも遅すぎる。 …

光の束、緑の層 小さな緑色の石を受け取ってから、青山ブックセンターへ。『本の島』発刊記念ということで、吉増剛造×堀江敏幸のトークイベントがあり、それを聴きに行った。昨年の秋に知り合ったばかりというのに、どこか懐かしい感じのするnさんとのつなが…

FOOTNOTE PHOTOS 02『アクテルデイク探訪』 http://www.wwalnuts.jp/vww/11/ 1. 十時半、というのだから、午前中のことである。けれども、フロントグラスをへだてて映しだされる空は靄がかり、湿り気を帯びた粒子が肌に纏わってゆくように見える。灰緑色と水…

今日は、せっかくの土曜日だというのに冷たい雨が降っているので、大人しく家のなかに居ることとなった。ふと思い立って、"The World of Donald Evans"から、戯れに"Stein"の章を試訳してみたりしたので、ちょっと載せてみます。 "Stein" スタインは、ベルギ…

北村初雄から吉田一穂へ、吉田一穂から三富朽葉へ この二月は東京も凍てつくような寒い日が続いたので、吉田一穂を読むにはうってつけといった感覚があった。「知性の力で極限まで表現を研ぎ澄ました〈極北の詩〉を理想とする〈孤高の詩人〉」(岩波文庫『吉…

北村初雄と「海港」派のこと 扉野良人さんが中務秀子さん主宰のリトルマガジン『DECO・CHAT』のコラムに書いていたのを読んで、大正時代の横浜に「海港」派と呼ばれた詩人たちがいたことを知った。外交官だった柳澤健、山名文夫と親しかった熊田精華、そして…

年が明けてもう十日も経つけれど、わたし(たち)はまだ心のどこかで、昨年11月の対談「小沢書店をめぐって」の余韻に浸っているようだ。トークのなかで長谷川郁夫さんがちらと言及されていた「叢書エパーヴ」や「エディシオン・エパーヴ」のことが引っ掛か…

2011年の3+5(読んだ順・観た順) [小説・評論] ・デボラ・ソロモン『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』(白水社)(id:el-sur:20110308)*1 ・山田稔『日本の小説を読む』(編集グループSURE)*2 ・ローベルト・ヴァルザー『助手』(鳥影社)(id:el-…

ローベルト・ヴァルザー作品集2『助手』(鳥影社、2011年)*1を読み終える。 玄関のベルを鳴らしドアを開けて「宵の明星館」に入っていった若者ヨーゼフ・マルティは、最終頁でスーツケースを地面から拾い上げると人生の落伍者ヴィアジヒとともに館を出てゆ…

『ぽかん』02号が来た!貸本喫茶ちょうちょぼっこのメンバーの一人、真治彩さんの個人誌『ぽかん』02号*1が届く。美しい記念切手がたくさん貼られたうす茶の包みを郵便受けに見つけておおいに喜ぶ。これこれ、待ってたわーという感じ。山田稔さんが名付け親…

「小沢書店をめぐって」のことなど この初夏、文学好きのあいだで話題となった、流水書房青山店でのブックフェア「小沢書店の影を求めて」。わたしも噂を聞きつけていそいそと二度も見に行き*1、瀟洒な目録を含めその徹底した仕事ぶりに大いに驚嘆して帰って…

原子朗編『大手拓次詩集』(岩波文庫、1991年)を読む。うっとりするような、きれいな日本語。薔薇や香料をモティーフにした詩がたくさんある。「とび色の歌」「言葉の香気」「指の群」「日食する燕は明暗へ急ぐ」「鋏で切りとつた風景」などの散文詩もとて…

机上の灯台 ノウゼンカズラの杏色の花は落下し、百日紅と芙蓉はまだたくさん咲いている。この前見たときはまだムラサキシキブの小さな実は色づいていなかったのに、今日はもうだいぶ薄紫色に変わっていた。 まっさおさおな高い空なので、日傘くるくるまわし…

われらの獲物は一滴の光:詩集『雷滴』平出隆*1 颱風の余波で風が荒れ狂っているのでおとなしく蟄居していた週末の日、郵便配達夫が透明なかごにくるまれた、じつに著者「二十四年ぶり」の新詩集『雷滴』を届けてくれた。 玉虫の翅のように美しい布張りの函…

闇のなかの微光:北村太郎つれづれ 北村太郎の好きだったドリス・デイの"Sentimental Journey"、わたしの好きなヴァージョンはHarpers Bizarreが唄った1968年録音のもの(訳は適当です)。 Gonna take a sentimental journey Gonna set my mind at ease Gonn…

ドナルド・エヴァンズを探しに 来月下旬にアムステルダムに行けることになったので、平出隆『葉書でドナルド・エヴァンズに』*1(作品社、2001年)と"Stamps from the World of Donald Evans"(雅陶堂ギャラリー、1984年)とWilly Eisenhart "The World of D…

石原輝雄『三條廣道辺り 戦前京都の詩人たち』(銀紙書房、2011年) マン・レイ・イスト氏こと石原輝雄さん(id:manrayist)より上梓されたばかりの本を一冊分けていただいた。前々から出来を愉しみに待っていた一冊である。正式な発売日はまだにもかかわら…

水晶のように透明(クリスタル・クリア):キャサリン・マンスフィールド 書かない時間があまりに長かったので、ここに何を書いていいのかよく判らなくなってしまった。こういう時は引用に限ります(?)。時間があるので、昔読んだ本を気まぐれに読み返すと…